流動性リスク
概要と重要性
世界金融危機より前は、あらゆる形態・規模の金融機関がごく当然のこととして流動性を軽視しており、運用可能な資金に対してコストをほんのわずかしか、あるいは全く割り当てていませんでした。しかし金融危機が訪れたとき、多くの機関は十分な流動性を維持することに苦慮しました。そしてそれが、銀行破綻の主要因となり、中央銀行が国内の金融システムに流動性を注入して経済の流れを維持する必要性にもつながりました。
金融危機が収束の兆しを見せるなか、1つのことが明らかになってきました。それは、銀行や証券会社は流動性の管理にもっと努力を払う必要があるということです。その動機となるのは、自己防衛本能だけではありません。不十分な流動性リスク管理の結果として生じる悪影響は、1つの金融機関の内部に留まらず、その壁を越えて金融エコシステム全体、あるいは世界経済にまで及ぶことになりかねないのです。
規制当局はまさに今、再び新たな金融危機が発生するのを防ぐという役割を(Basel IIIなどで)果たそうとしており、金融機関には、自身と経済の両方を良好な状態に保つために流動性リスク管理を強化しなければならない、という重責がのしかかっています。
流動性の定義
流動性とは、許容できないレベルの損失を被ることなく、現金と担保証券に対応できる銀行の能力のことです。流動性リスクとは、債券(実物の債券、債券と認識されるものの両方)に対応する能力の不足によって、銀行の財務ポジションや存続がどの程度脅かされているかを表す概念です。流動性リスク管理とは、銀行が以下を行うためのプロセスと戦略を総合したものです。
- 平常時と、経済的ストレスの影響下にある時期の両方について、日常業務や財務ポジション全般に悪影響を及ぼすことなく、キャッシュフローと担保要求に対応できる能力を評価する。
- 必要な資金が必要なとき確実に利用できる状態を維持するための戦略を策定し、しかるべき行動をとることで、リスクを軽減する。
流動性リスク管理を成功させるために克服すべき課題
- 流動性を一元的に把握する手段がない:部門や部署の縦割り構造は、組織全体の流動性ポジションを把握する能力や、流動性の低い資産や資産クラスの影響を地域/部署/資産クラスを横断して判定する能力に制限を加えます。
- 分析能力が足りない:十分な分析機能を整備できていない場合、個々のトランザクションに対するキャッシュフローの予測が著しく困難になります。トランザクション件数が百万単位に達する場合はなおさらです。
- ストレステストが不十分:多くの金融機関は従来、ストレステストにおける売買取引および資金流動性に関する懸案事項を無視してきました。そのため、市場ショックの影響に対する備えができておらず、厳しい財務ポジションから簡単に抜け出すことや、新たな資金を獲得することが難しくなっています。
- コンプライアンス一辺倒の考え方を克服:流動性リスク管理に関するコンプライアンス要件だけに集中しすぎると、獲得できるはずのビジネスメリットを見逃してしまうことがあります。
流動性リスク管理を的確に行うための3つのステップ
効果的な流動性リスク管理を組織に導入するにためには、以下の3つのステップが必要です。
- リスクの計算、資本の最適化、市場イベントと流動性の測定のための分析フレームワークを確立する。
- コストと流動性の変化による影響をほぼリアルタイムで分析し、正確に行動できる体制を整えることにより、市場ショックの影響を最小限に抑えながら、より良い「さや取り」のチャンスを探します。
- 複数のタイムゾーンにまたがる極めて複雑なポートフォリオ、資金調達ポジション、金融商品にもとづいた迅速なオンデマンド方式のシナリオ分析を用いて、市場流動性と組織全体の最適化シナリオを評価することにより、組織の流動性と資金調達のニーズについて最適な解決策を速やかに見つけ出します。
- データを管理する。
- 自社の流動性について一元化された視点を確立します。具体的には、イントラデイ(日中)シナリオにもとづいて、最新の市場情報、ポートフォリオの最新情報、投資利益、流動性の市場での視点を統合します。
- リスク管理プロセスを統合する。
- 複雑なポートフォリオと資産クラスの価値を評価できるように、ポートフォリオの評価とシナリオ分析を単一のプラットフォームに統合します。将来発生する可能性のある市場ショックやシナリオが流動性にもたらす影響を、ほぼ瞬時に評価。