ソーシャルメディア分析で成功するために
先進組織の共通点は「何をしたいか」を明確にすること

ビッグデータという言葉がビジネスの世界に浸透してから、数年が経過した。IDCの調査によると、2011年に全世界にあるデータ量は1.8ゼタバイト。砂粒を1バイトとすると、1.8ゼタバイトという規模は、地球上の砂浜にある砂の数と同じくらいだと言われる。私たちは途方もないボリュームのデータに囲まれて生活しているのだ。しかしながら、これらのデータのほとんどはテキストやビデオといった非構造化データであり、存在するだけでは普遍的な価値を持たない。こうしたデータには消費者の深層心理が隠されているかもしれず、積極的に活用することができれば、企業にとって大きなチャンスになるはずだ。

「これまで分析していた構造化データに加えて、ビッグデータを分析すればよい」と言うことは簡単だ。しかし、活用するためには具体的にどうすればよいのか。ビッグデータは名前のとおり膨大だ。分析のやり方もわからなければ、そもそも効率的に収集するやり方すらわからないという意見が大半を占めるだろう。ゴールは消費者の深層心理をあぶり出し、ビジネスにつなげることに置くとして、まずは、基本から始める。基本はリスニング(傾聴)だ。

ソーシャルメディア分析の5つのステップ

  1. 基本的なリスニング
    ソーシャルメディア分析において、第1のステップとなるのがリスニングになる。ここをうまく設計できるかどうかで、最終的な結果は大きく変わってくる。当初は、自社の製品・サービスについて、一般に何が語られているかを検索してみるのもいいだろう。製品名やサービス名をキーにソーシャルメディアからリアルタイムに情報を抽出し、その評価をポジティブ/ニュートラル(中立)/ネガティブで色分けする。これはセンチメント(感情)分析と呼ばれるテクノロジーによって、すでに実現可能だ。同様の手法を競合製品・サービスがどう語られているかを把握することに使うこともできる。
  2. 原因のリスニング
    自社製品・サービス、もしくは会社としてのブランドイメージを把握できれば、原因のリスニングに移る。原因のリスニングでは、より高度な分析を行い、インフルエンサー(影響力の強い消費者)を特定する。彼らの感情変化を深掘りすることで、ネガティブ/ポジティブな評価に至った経緯を特定することが可能になる。たとえば、長く好意的に評価してくれていたユーザーがネガティブ評価に変わった場合、その経緯をつかんで対処法を考えることができるようになる。
  3. ヒストリック分析
    情報はリアルタイムに集まってくる。消費者の感情変化を、昨日との比較、1カ月前との比較、1年前との比較など、時系列にあぶり出し、企業が実行した施策が消費者の感情にどのような変化をもたらしたのかをつかむことができる。単にソーシャルメディアから収集したビッグデータを時系列に分析するのではなく、社内に蓄積されたデータの分析結果と突き合わせ、感情変化とビジネスの状況を照らし合わせて傾向をつかみ、抜本的な対策を立案できるようになる。
  4. プランニング&エンゲージメント
    3までの仕組みをITによって実現できれば、業務プロセスの規定やビジネス目標の設定によって、計画立案やKPIをシステムに組み入れることになる。たとえば、ネガティブなことを書いているが影響は小さい消費者は無視し、明らかな事実誤認に基づくネガティブな意見には積極的に対処するなどの方法で、炎上を抑え、企業として明確なメッセージを広く消費者へ届けることを目指す。
  5. ソーシャル・スコアカード
    最終形として目指す姿がここだ。施策の実行結果をリアルタイム/時系列にモニタリングすることで、KPI達成度評価を行い、ROI達成度評価も行う。ROIの達成度評価は施策ごとに行い、単に収益性を評価するだけでなく、ブランドイメージの向上や炎上の抑制など、感情を軸にした角度からROIを導けるようになる。過去の施策と実行結果が蓄積されてくると、施策を実行する前に効率的なリスク分析を実行することもできるようになる。

先行企業の成功事例が続々

すでに成功を収めた企業から、先進事例が多数寄せられている。米国のアパレルのオンライン販売会社は、真夜中のオーダーを翌朝に発送するなど、カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)の強化に力を入れている。同社は、ソーシャルメディア分析をビジネスプロセスに実装し、広告予算を削ってソーシャルメディアを通したコミュニケーションやチャットなどに投資。リピート顧客率75%、創業10年足らずで年商約1000億円を達成した。

ソーシャルメディア分析は、マーケティング関連のあらゆる部門・業務において効果を生む。たとえば、ブランド戦略は、広報の成果を分析することで得られる。カスタマー・エクスペリエンスを高めるためには、消費者の期待と現状の認知が必要だ。効果的な顧客サポートは、消費者が行っている会話や消費者の影響力を理解することで生まれる。効果分析や競合分析は市場調査そのものであり、ダイレクト・マーケティングの成果は、Eメール・マーケティングに対する顧客の反響を直接つかむことで得られる。

自治体の成功事例もある。SASと国連は、米国とアイルランドにおける約50万のブログや掲示板、ニュースサイトから抽出した2年分のソーシャルメディアデータを分析し、日々の生活を送る人々の声と失業率との関連を検証した。ソーシャルメディアと雇用統計を組み合わせて独自に分析した結果、食料品の買い控え、公共交通機関の利用増加、グレードの低い自動車への買い替えなどに関する会話の増加が、失業率急増の前兆であることがわかった。失業率の増加は、自治体にとってさまざまな悪影響を生むため、経済現象を事前に察知できることの意味は大きい。

これらの事例で注目できるポイントは、成功している企業や組織が共通して、ある特定の成果を得ようとして、ソーシャル・メディア・マーケティングをスタートさせていることだ。漠然としたゴール設定ではなく、具体的にやりたいことを明確にしてから導入することが重要になる。そして最終形は、質的な評価と量的な評価を組み合わせて分析し、正しい答えを得ることで、最も効率的な施策を打てるようにすることに置かれている。

ソーシャルメディア分析は、まだ新しい分野だ。多くの企業は、手探りで始めることになり、トライ&エラーを重ねることになるかもしれない。それは決して悪いことではなく、試行錯誤することで、プロジェクトの成果はより洗練されたものになってくる。ただ、忘れないでほしいのは、目的を明確にしてプロジェクトをスタートさせることと、ITとビジネスにおけるプロジェクトの最終形を意識することだ。テクノロジーはすでにある。