製造業におけるモノのインターネット(IoT):現場の声
IoTによる製造業の働き方改革
執筆:ダニエル・ティーチー(Daniel Teachey)、「Insights」編集者
さまざまな業界に広がり続けるIoTですが、特にその動きが顕著なのが製造業です。製造業界では、コネクテッド・デバイスのコンセプトに基づくIoTの活用による、スマート・マニュファクチャリングの実現に向けた取り組みが加速しています。
IoTが製造業にもたらす影響を探るため、私たちは業界を代表するリーダーを対象としたインタビューを実施し、IoTによって製造現場のオペレーションがどのように変化しているかについて調査しました。また、より多くのモノがインターネットでつながる将来を見据えた準備についても回答を募りました。
製造業のIoTをめぐる最大の課題
Cisco社、戦略的イノベーション担当副社長、マチェイ・クランツ(Maciej Kranz)氏: IoTの大規模導入における3つの障壁の中でも、その筆頭として挙げられるのがセキュリティです。多くのデバイスのインターネット接続、またデバイス間の連携が進む中、このところ大きな注目を集めているセキュリティ攻撃は、IoTが侵害に対して脆弱であることを明らかにしました。セキュリティ対策は、関係者全員が責任を持って取り組まなければなりません。2つ目の障壁は、オープン標準と相互運用性の普及が遅々として進まないことです。これは、独自規格あるいはそれに近いテクノロジーを好んで使用してきた垂直統合型のベンダーが抱える課題でもあります。そして3つ目は、企業文化の変革に対する抵抗です。これもまた、IoTの普及を阻む大きな要因となっています。IoTがもたらす変化のスピードに対応するためには、内部の業務プロセスを迅速化し、外部のパートナー企業を先導しながら、従業員のイノベーションを支援しなければなりません。また、緊密な部門間連携のもとに的確な意思決定を下せる必要もあるのです。
Western Digital社、ドライブ製造担当上級副社長、デイヴ・ローチ(Dave Rauch)氏: 多くの課題がある中で、まず生産、工程、製品といった社内のデータソースが分断されていることは根源的な課題だと言えます。サンプリング計画にも一貫性がなく、見込まれる効果もあいまいなままです。加えて、重要なスキルセットが不足しているという問題もあります。
Electrolux Major Appliances社、上級ディレクター、アーロン・レイモンド(Aaron Raymond)氏:最大の課題は、IoTがスピードとイノベーションに与える影響でしょう。製造業はこれまで、反復実行性と一貫性を追求する大規模かつ資本集約的なビジネスであると考えられてきました。しかし、IoT時代の幕開けによって市場が変化し、顧客の期待も進化しているのです。ただし全体としては、まだ流動的な段階だと言えます。
USG社、プリンシパル・テクニカル・スペシャリスト、ポール・リード(Paul Reed)氏:まず、IoTは正解が欲しいときにだけアナリティクスと併用できるような、単純なツールではないという点を認識しなければなりません。IoTは、今や製造プロセスの一部なのです。また製造業においては、最初から完璧なモデルや意思決定のプロセスなどはないということを理解しておく必要があります。これらをある程度の時間をかけて構築することで、初めて成功を収めることができるのです。
現実社会におけるIoTのインパクト
イノベーションが加速する今、トップクラスの製造業は効率的な生産性をどのようにして維持しているのでしょうか?SASの製造業向けバーチャル・フォーラムに参加して、リーダー企業における取り組みと将来に向けた準備についての対談をお聞きください。
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いち早くIoTを取り入れている組織
クランツ氏:結論から言えば、IoTによる創造的破壊をリードしているのは、多角的な事業展開を行う巨大企業です。こうした企業は、主にIoTをコネクテッド・オペレーション、リモート・オペレーション、予測分析、予防保全に利用することで、投資対効果(ROI)を得ています。消費者向けIoTへの関心も非常に高まっていますが、現時点においてIoTがもたらす現実的なビジネスチャンスと価値を見いだすことができるのは、産業部門です。IDC社の業界予測によると、IoTへの投資規模が大きい領域として、製造業、運送業、公益事業という3つが挙げられています。IoTの採用に関して、消費者向けビジネスは現在、全体の4位に位置付けられています。.
ローチ氏:組織の規模が大きければ大きいほど、このような大規模プロジェクトに対応できるメリットがあります。既存の古いITシステムが問題となるかもしれませんが、それでもリソース不足に陥ることに比べれば対処の余地があります。製造業の観点で言うと、自動運転が良い例になるでしょう。自動運転車は、発生した大量のデータ信号をわずかな時間で処理して判断しなければなりません。細かい調整が人間の介入なしで行われ、誤りが許されることはほとんどありません。
リード氏: IoTをいち早く導入しているのは、プロセス産業だと思います。化学物質や石油などを継続的に製造するプロセス業です。プロセス制御テクノロジーは、IoTのベースとなっています。そこから一歩進めば、データ主導型モデルに基づく最適なプロセス制御ポイントを築くことができます。理想的なIoT工場とは、手作業を最小限にとどめながら、従業員による知的労働を最大限に引き出せる工場です。
(トップクラスの製造企業は)主に、IoTをコネクテッド・オペレーション、リモート・オペレーション、予測分析、予防保全に利用することで投資対効果(ROI)を得ています。 マチェイ・クランツ(Maciej Kranz)氏 戦略的イノベーション担当副社長 Cisco社
IoTに備えて組織内で実施したこと
クランツ氏:IoTの導入には、組織全体の協力体制が欠かせません。私はこれまで、スタートアップを含むさまざまな企業と連携してパートナー・エコシステムを構築してきました。これは包括的なIoTソリューションを、顧客とともに顧客のために共同開発、共同実装できるエコシステムです。こうしたアプローチは、IoTの世界全体にわたって相互運用性が実現しなければ機能しません。CiscoはIoTのオープン標準の確立を牽引し、多数の業界標準化団体・コンソーシアムの活動に積極的に参加しています。例えば、センサー通信、ネットワーク・アクセス、クラウド、フォグ、ブロックチェーン(英語)などのアーキテクチャ・フレームワークや標準の策定に取り組んでいます。
ローチ氏:まずはIoTの潜在的な価値を認識することです。そうすることで、組織の変革に向けたロードマップの策定に注力できるようになります。
レイモンド氏:IoTが登場した結果、家電業界では販売手法も購入方法も一変しました。家電製品が配送・設置されるまでの最後の区間、ラストマイルはよく話題になります。ラストマイルのビジネスを押さえることにはメリットがありますが、家電製品の場合は多くのリスクも伴います。消費者は新しい冷蔵庫の設置から古い冷蔵庫の処分までを誰かに委ねたい、しかも不便な思いをすることなく済ませてしまいたいと考えているはずです。Electroluxでもそのような取り組みを進め、消費者ニーズへの対応力を強化しています。この考え方は比較的新しく、20年前には検討すらされなかったものです。
リード氏:最も重要なポイントは、必ずIoTテクノロジーの専門知識を備えたエキスパートを開発の責任者として任命することだと考えます。業務とIoT開発は分断されるべきではなく、開発から導入に至るまで一貫していなければなりません。