モノのインターネットがもたらすビジネスチャンス
最先端のアナリティクス
執筆: フィオナ・マクニール, SAS グローバル・プロダクト・マーケティング・マネジャー
センサー、RFIDタグ、スマートメーター、各種スキャン装置、モバイル・コミュニケーション、リアルタイムのソーシャル・メディアなど、企業の内外で発生する情報は膨大なものになっています。これらすべての情報がネットワークでつながり、人間の介在なしに互いにコミュニケーションを取ることが、モノのインターネット(IoT)です。
IoT市場は、2020年までにデバイス数が260億台近くに上り、世界経済への付加価値は1.9兆ドル に[1]、年間売上高は9兆ドル近くになる[2]と推測されています。多くの人は、IoTが新たなタイプの産業革命であると声をそろえています。
しかし、企業が膨大なストリーミング・データから有益な知識を抽出し、この新たな経済に参加するためには、アナリティクスを活用することが不可欠です。
従来の分析方法では、データを保管した後に分析を行っていました。しかしストリーミング・データの場合、データがクラウドや高パフォーマンス・リポジトリに保管される前に、流れているそばからリアルタイムに分析を行う必要があります。こうすることで、データが作成されると同時に関心のあるパターンを識別し、調べることができます。その結果、瞬時に洞察を得てすぐに行動を起こすことができます。
多くの業界は、アナリティクスを活用してストリーミング・データを可能な限りデバイスに近いレベルで理解することで、新たな段階の知識を得ることができます。
イベント・ストリームに高度なアナリティクスを適用して未来のシナリオを評価すること、これは今や実現可能なものになっています。
以下にいくつかの例を挙げます。
医療業界におけるモノのインターネット
医療業界では、IoTデータを分析することで、癌を治療する機器の休止時間を減らすことができ、計画どおりに患者を治療できるようになります。計画どおりに行わなければ、治療の効果は40%弱まると言われているため、休止時間の低減には大きな意味があります。何百台ものセンサーをモニタリングし、早期に問題を識別して積極的に是正に取り組むことで、サービススタッフは必要な情報と部品を速やかに得ることができます[3]。癌と脳疾患の治療をサポートする機器と臨床管理サービスを提供するスウェーデンの企業、エレクトラでは、センサーを使ったモニタリングを行うことで、現地への訪問回数が30%減りました[4]。
世界人口の増加と、これに伴う疾患や医療費の増加により、患者を遠隔モニタリング(英語)する市場は2007年から2011年にかけて2倍に拡大しました。2016年までにはさらに2倍に拡大すると予測されています[5]。
仮に、これらのデータがデバイスの状況や患者の状態のモニタリングだけでなく、部品が正常に機能しなくなる前に機器の信頼性を予測するためにも活用できるとすればどうでしょう。そうなれば、経験とカンにもとづいて個々のデバイスにサービスを提供する方法から、全てのデバイスに渡って最適なサービスを提供する方法へとシフトするでしょう。また患者が抱える問題を症状が現れる前に予測することで、有害事象の発生を防止できるようになります。
イベント・ストリームに含まれる情報は現状を説明するだけにとどまりません。アナリティクスを活用して今後のシナリオを予測することは、もはや現実的なものになっています。
ではどうすれば予測機能をIoTデータに適用できるのでしょう?現在の高パフォーマンスのアナリティクス環境は、複雑な問題を分析してモデルを生成するために設計されています。これらのアルゴリズムは、今後のシナリオに関連のあるパターンを検知するために、データの正規化やビジネスルールとともにデータ・ストリーム中にコード化することができます。つまり、状況やしきい値をモニタリングすることに加えて、今後発生しそうな事象を予測するためにもデータ・ストリームを使えるのです。
製造業界におけるモノのインターネット
自動車業界は、衝突を防止するための意思決定システムの開発に力を入れています。レーダーやそのほかのリモート・テクノロジーにもとづいて走行状況をモニタリングし、衝突の可能性を評価するものです。これらの衝突防止システム(英語)は、衝突事象が発生する可能性が高いにもかかわらず運転手の反応がない場合、自動車に対して減速や車外ライトの点滅など、機械的な指示を自動的に出します。このシステムを幅広く展開することで、年間1000億ドル超[6]に相当する事故の減少を実現できる可能性があります。
物理的な機械と、ネットワーク化されたセンサーやソフトウェアを組み合わせた「産業のインターネット」[7]は、製造業界において生産の最適化、製品開発、アフターサービスなど幅広い分野で活用できます。そして実際に、さまざまな可能性を持っています。GEは、資産とリソースの活用、およびオペレーションとメンテナンスのやり方の変更により、この産業分野全体で年間1兆ドル規模の改善を生み出せると予測しています[8]。
エネルギー業界のモノのインターネット
エネルギーの使用量、1日の中で使用が急増する時間や負荷の依存関係について理解を深めるためには、エネルギー消費パターンを詳しく見ることが必要です。製造業界をはじめとするすべての業界は、照明だけで世界の電力の19%を消費しています[9]。代替エネルギー源の整備は、すべての業界に大きな影響を及ぼします。
たとえば、ガスタービンに使用される1枚のブレードは、1日あたり500GB のデータを生成します[10]。風力タービンは風をとらえる最適な角度を常に識別しますが、タービン間のコミュニケーションを可能にすることで、タービンファームはひとつのユニットとして稼動することができます。
従来、稼働中のタービンに何が起きているかを知る唯一の方法は、100メートルの高さまで登って目視することでした。今日では、リモート・モニタリング機能が、これらのエネルギー生成装置の状況を確認するための新たな目となっています。
このデータを予測に活用できるとすればどうでしょう。風力発電での効率化とは、弱い風でいかに多くのエネルギーを蓄えられるかということです。余剰エネルギーの発生を予測できれば、市場への売出しタイミングを考慮しつつ、バッテリーに蓄えるタイミングを最適化することができ、結果、より多くのエネルギーを蓄えられるようになります。
エネルギー市場でのIoTは、顧客層を様変わりさせるものとして最もよく知られているテクノロジーのひとつです。動的なスマートメーター課金システムにより、顧客は契約の新たな選択肢を得ることができます。そして、エネルギー供給企業はより顧客中心型のアプローチを取れるようになります。公益事業がスマートグリッドへシフトすることで、2013年に25億ドルだった顧客情報システムの市場は2020年には55億ドルと約2倍になることが予測されています[11]。
小売業界のモノのインターネット
小売業界においてもIoTの中心は顧客です。一部の企業は、店舗内を見てまわる何千人もの来店客からデータを収集して処理する方法を研究しています。センサー信号や映像から得たこの「店舗内における顧客行動」の情報には、来店客が陳列された商品の前にとどまった時間や、来店客が最終的に購入したものの記録が含まれます。
企業はこれらのデータポイントをスマートデバイスのWi-Fiネットワークと結び付け、店舗レイアウトの最適化に役立てることができます。小売業者は、来店客に対する店舗内での販売促進を行う際に適切にターゲットを絞ることができるだけでなく、顧客への理解を深めることもできます。IoTデータを活用することで、来店客との会話を増やし、購買経験をカスタマイズし、ロイヤリティを高めることができるのです。
IoTデータを活用して行動を起こす
センサーやデバイスは、現状を説明する大量のデータを生成します。現状を分析することで、高度な分析に基づき事前に計画されたアクションから、アラートのようにすぐに対応を行うべきアクションまで、次に取るべき行動を知ることができます。
当然ながら、分析を行うとさらなる疑問が生まれます。しかしその場合も、センサーのデータを継続的に収集し、現状についての新たな側面、イベントの要素、状況のさらなる詳細を測定し、さまざまなパターンを理解することで、疑問の解明に役立てることができます。
IoTデータは、それ単体では価値をもたらしません。従来のデータソースと同様、そこから洞察を得て、それにもとづいて行動する能力こそが価値をもたらします。そして最先端のアナリティクスは、ここで大きな力を発揮するでしょう。
参考文献
[1] Peter Middleton, Peter Kjeldsen and Jim Tully, “Forecast: The Internet of Things, Worldwide, 2013,” Gartner, November 18, 2013.
[2] IDC, “The Internet of Things Is Poised to Change Everything, Says IDC,” Press Release, October 3, 2013.
[3] Todd DeSisto, Opening Session, Axeda Connexion Conference, Boston, MA, May 6, 2014.
[4] Martin Gilday, "Enhancing Customer Service Through Connected Machines" Axeda Connexion Conference presentation, Boston, MA, May 6, 2014.
[5] Kalorama, “Advanced Remote Patient Monitoring Systems,” March 28, 2013.
[6] Michael Chui, Markus Löffler, and Roger Roberts, “The Internet of Things,” McKinsey Quarterly, March 2010.
[7] A term coined by GE.
[8] Maribel Lopez, “GE Speaks on the Business Value of the Internet of Things,” Forbes, May 10, 2013.
[9] International Energy Agency, “Light’s Labour’s Lost: Policies for Energy-Efficient Lighting.”
[10] GE Software, “System 1™ and Proficy Smartsignal™ Keep Watch.”
[11] Navigant Research, “Electric Utility Billing and Customer Information Systems.”
アナリティクスを実際のビジネスシナリオに活用した経験が豊富なマクニールは、現在、アナリティクスを活用してビジネスとアプリケーションのプロセスについての洞察を自動的に得られるようにすることにフォーカスしています。SASに入社して15年以上になるマクニールは、さまざまな業界の企業のビジネスを理解し、戦略的なテクノロジーの活用によって目に見える利益を生み出すことを支援してきました。またマクニールは 『アナリティクスのヒューリスティック:分析を活用する世界に影響を及ぼすものについての実用的観点』の共著者の一人です。