コネクテッド・カー:IoTが導くOEM企業の新天地
執筆:Futurum Research社プリンシパル・アナリスト、Broadsuite Media Group社CEO(最高経営責任者)、ダニエル・ニューマン(Daniel Newman)
子供たちを乗せるミニバンにDVDプレイヤーを取り付けたときのことを覚えていますか。これでさらに充実したドライブを楽しめるようになる、と喜んだのは筆者だけではないはずです。自動車向けのサテライト・ラジオが登場したときも、同じくらい感激したものです。一度利用すると、どの車にも欲しくなるような機能でした。では、コネクテッド・カーとモノのインターネット(IoT)についてはどうでしょうか。ある調査結果では、これらの新たなテクノロジーはかつての胸の高まりをはるかに凌ぐ異次元の変革をもたらすと報告されています。
テクノロジー分野のニュースでも報じられているように、モバイル医療から自動運転車まで、IoTが私たちの生活に劇的な変化をもたらしていることは周知の事実です。ただし、自動運転車が普及期を迎える前段階において、新世代のコネクテッド・カーが登場するという点にはお気づきでしょうか?コネクテッド・カーによって、ある地点から別の地点へという移動の方法は大きく変わります。そして相手先商標製品の製造会社(OEM企業)にとっては自動車業界におけるビジネスの戦略も根底から変わることになります。将来の自動車では、見た目よりも車載スマート・テクノロジーが重視されるようになり、製造企業は新しい収益化の手法、ブランド価値の向上、優れたユーザー体験といった領域に注力することになるはずです。
コネクテッド・カーが話題になる理由
Wi-Fi機能、FacebookやTwitterなどの人気ソーシャル・アプリを搭載した自動車は既に開発されています。しかし、コネクテッド・カーが目指すのは、さらにその先です。交通システム、他の車両、製造元、地域の店舗やその間にあるさまざまなモノとの接続によって、顧客と製造企業の双方に役立つ膨大なデータを生み出します。消費者はこの進化したテクノロジーを快適に楽しめばよいのです。一方、製造企業はコネクテッド・カーが導く未来のビジネスチャンスをつかむために、意識を転換しなければなりません。
コネクテッド・カーとモビリティ・サービスの詳細
走行状況に応じた自動車保険からライド・シェアリング・サービス、予防保全アラート、共同自動車ローンまで、コネクテッド・カーとモビリティ・サービスはOEM企業が進むべき道筋を一変させました。
コネクテッド・カーがもたらす安全性
ガソリンを入れ忘れたことはありませんか?オイルやバッテリーは定期的に交換していますか?一般的なカーナビにも渋滞情報や取締地点といった程度の警告機能はありますが、コネクテッド・カーは速度、温度、エラーコードなどのデータを収集して必要になる部品や整備時期を自動的に管理し、警告や通知を通じてより安全な運転を支援します。トランスミッション・フルードの交換やラジエーター洗浄といった具体的な警告がダッシュボードに表示されることを想像してみてください。あいまいな「エンジン警告」ランプを見た消費者が、一体何が問題なのかと戸惑うことはもうなくなります。
このことは、OEM企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。何らかの不具合が発生した場合、仮に自然な摩耗や使用上のミスが原因でも、消費者は概して製造企業に責任があると考えるものです。故障が少なくなることで顧客満足度は高まり、ブランド・ロイヤルティの向上につながるということです。
この他にもコネクテッド・カーから得られるデータを利用することで、規定の性能を発揮できていない部品を察知することができます。より高品質の部品サプライヤーの採用が必要であれば早い段階で対処することで、消費者からの苦情を未然に防ぐことが可能になります。万一、製品リコールとなった場合にも、ドライバーの乗車時に通知することができます。保証時期の認識精度の向上や保証期間の最適化を行い、車両の製造品質自体も改善できるようになります。
コネクテッド・カーは、交通システム、他の車両、製造元、地域の店舗やその間にあるさまざまなモノとの接続によって、顧客と製造企業の双方に役立つ膨大なデータを生み出します。 ダニエル・ニューマン(Daniel Newman) BMG社CEO(最高経営責任者) Futurum Research社プリンシパル・アナリスト
消費者の新たな需要の喚起
コネクテッド・カーは、消費者の移動中に買い物、給油、訪問を促すことができます。店舗の駐車場に着いたら、ガソリンやコーヒーの割引情報が表示されることを考えてみてください。生活が変わると思いませんか。OEM企業にとってもさまざまなメリットがあります。APIを使って車両をメンバーズ・カードに接続したり、消費者のデータを直接収集することで、どのような通知を送信するべきかをリアルタイムで判定できます。さらに機械学習プログラムを活用することで、通知の利用状況や閲覧状況、効果を確認できるのです。利用者の習慣やGPSデータの運転経路の分析にもとづいて、役立つコンテンツを提供することもできます。収集したデータを活用して利便性を向上しつつ、収益化の方法を見いだすことがポイントになります。
選ばれるユーザー体験:簡素化か、機能強化か
消費者にとってのコネクテッド・カーは、運転を容易にするものであり、例えばMicrosoft Wordの「最近の文書」のように、ユーザーが頻繁に使用するメニューを提示できなければなりません。一方、OEM企業はこのデータを使用することで、実際に利用される機能、アップグレードの対象とすべき機能、提供を終了してもよい機能を判断することができます。まさに車載機能における適者生存とも言えるもので、これによって製造効率がさらに高まり、長期的な顧客満足度の向上にもつながるのです。
コネクテッド・ワールドの情報量に圧倒される場合もあるかもしれません。ドライバーは常時、お得な情報を受信し続けていたいのでしょうか?現代社会は既に、ネットワークからのマーケティング情報で溢れかえっています。これは私見ですが、コネクテッド・カーのメーカーは今後、消費者からのフィードバックにもとづいて情報提供とプライバシーへの配慮のバランスを確保できるようになると考えます。自動車業界は今、従来の枠組みを打ち破り、顧客とのコミュニケーションを充実させ、乗車体験の真の価値とは何かを考えるための好機を迎えていると言えます。
ダニエル・ニューマンのIoTトーク:コネクテッド・カー
IoTは、自動車メーカーとそのパートナー企業にとってビジネスの環境を一変させました。IoTが将来に与える影響をテーマに、ダニエル・ニューマンとSASのエキスパート、ロニー・ミラー(Lonnie Miller)が対談しました。
私とブライアン・ファンゾ(Brian Fanzo)が共同司会者を務めるSMACtalkをお聴きください。SASのロニー・ミラー(Lonnie Miller)を迎え、コネクテッド・カーとアナリティクスがもたらすデータの画期的な利用方法や業界の展望について語り合いました。
執筆者の紹介
Futurum Research社のプリンシパル・アナリストとBroadsuite Media Group社のCEO(最高経営責任者)を兼任。世界大手のテクノロジー・ブランドと連携し、デジタル・トランスフォーメーションとそれが企業に及ぼす影響について調査。執筆した記事は、CIO.Com、CIO Review、CNBCの他、世界中の多数のサイトで定期的に引用されている。作家(『Building Dragons: Digital Transformation in the Experience Economy』など5作品がベストセラーに)、Forbes、Entrepreneur、Huffington Postの寄稿者、大学院の非常勤教授としても活躍。
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