『アイ・ラブ・ルーシー』に学ぶ、業務とインセンティブの重要性

執筆:LAURA SQUIER, SALES ENGINEERING MANAGER, SAS

「インセンティブ」という用語を耳にするたび、私は『アイ・ラブ・ルーシー』に出てくるチョコレート工場のシーンを思い出してしまう。

新人従業員として工場に雇われた女性、ルーシーは、ベルトコンベアの上を流れてくるチョコレートをその場で包装する役目を任される。工場のマネジャーはルーシーに、「もし、ベルトコンベアの上に一個でも包装し忘れたチョコレートを見つけたら、クビにする」と厳しい言葉を投げる。このとき、マネジャーの視点からは、「従業員は、素早くチョコレートを包装すれば、失業せずに済む」という論理的なインセンティブが見えている。しかしルーシーの視点からは、物事の見え方は全く違ってくる。作業が追い付かないほどベルトコンベアのスピードが上がってしまうと、ルーシーは、マネジャーに叱られないように、包装できなかったチョコレートをすべて食べてしまうのだ。作業場にやってきて、彼女の仕事ぶりを見たマネジャーは、チョコレートの大部分を彼女が食べたことに気付かない。そうして、ルーシーのタイムカードに「あなたの仕事はすばらしい!」と、賞賛の言葉を書き込み、他の従業員に「もっと(ベルトコンベアの)スピードを上げなさい!」と命令する。

応用分析技術は、業務プロセスの変革をもたらす。たとえば、社員が従来の業務をもっと効率的にこなすための変革や、コストの削減、業務に最適な人材の入れ替えなどだ。当然、ルーシーがチョコレート工場で展開するような大混乱を職場からなくし、業務を改善する過程では、さまざまな方法を検討することになる。しかし、分析ソリューションが企業にもたらす利益がどれほど大きくても、企業自身がその活用に適した人材を配置し、ソリューションの引き起こす変化を受け入れる体制を作らなければ、利益を得ることはできない。単純に言えば、ルーシーの働くチョコレート工場が優れた職場になるためには、マネジャー自身が問題の解決に乗り出さなければならないのだ。

数年前、私はある州の税務部門で、「どの住民から税金を徴収できるか」を特定するための、予測モデル開発に携わっていた。私たちは、「無条件に税金を払う人」「督促されれば支払う人」「絶対に支払わない人」を特定する予測モデルを開発した。そのとき、私にとって、州の理想的な徴収戦略は明確になった。

それは、

  • 「支払うつもりの人には連絡を取らないこと」
  • 「無条件に支払う人/多少遅れても支払う人と連絡を取るための最良の戦略を決定すること」
  • 「極端に支払いを嫌う人々に対する徴収業務は外部委託すること」

 

だった。

しかし、すぐに状況を変えることは不可能だった。税務部門は、(支払う、支払わないにかかわらず)あらゆる納税者を同様に扱い、連絡には単一の戦略しか使えなかった。それは、従来と変わらない業務を、これから先も続けて行くしかないことを意味した。今になっても、私はこのプロジェクトが実行された理由がわからない。

似たような状況を、製品を売り込みに行った、あるコールセンターで経験したことがある。当時、私たちが「このコールセンター(call center)を、利益の中枢(profit center)に変えましょう」として提案した製品のコンセプトには、全く聞く耳を持ってもらえなかった。私たちは、コールセンターのマネジャーに対して、この製品を導入すれば、組織内で彼の存在価値が上がることを説明し、説得を試みた。しかし実際のところ、そのマネジャーは、コールセンターには顧客からのコール数と通話時間に応じて賃金が支払われることを知っていて、通話時間が長くなったところで、自分が得られる賃金に影響はないと考えたのだ。


『アイ・ラブ・ルーシー』の例に戻ると、そのコールセンターが似た環境にあることがわかる。工場のマネジャーは、ルーシーが1個チョコレートを包装するたびに、彼女にインセンティブをあげることもできたはずだ。しかし、ベルトコンベアのスピードが極端に速いままでは、状況は改善しない。この工場の非効率性を解決する唯一の方法は、ベルトコンベアの速度を、無理なく作業できる程度に落とすことだ。もし、マネジャーがそれを嫌がれば、工場で生産されるチョコレートの大部分は、人々に届くことなく、ルーシーの胃袋に隠されてしまうだろう。