「情報に基づく直感」を備えた人材を育てる
執筆: Jay Liebowitz, メリーランド大学ユニバーシティ・カレッジ校 客員教授
データを扱う社員や将来の意思決定者は、“Informed Intuitant”、つまり情報に基づく直感を操れる人になる必要がある。「Intuitant」という単語は造語であり、辞書には載っていない。私がこの用語によって伝えたいのは、意思決定者は、情報分析と直感の両方を意思決定の土台に据える必要があるということだ。The Corporate Executive Board(CEB)社では、このような人材を「情報に基づく懐疑論者(Informed Skeptic)」と呼んでいる。つまりは、科学的な情報分析と、直感的な情報への洞察は、どちらも重要なカギを握っているということだ。
ビジネス・アナリティクスやデータ・アナリティクス、ビッグデータを含む分野への注目が高まる中、われわれ教育者が理想的な「Informed Intuitant」を育て、成長させるにはどうすれば良いだろうか。CEBは、その本質的な要素に「批判的思考」のスキルを挙げている。アナリティクスに適用した場合、批判的思考というスキルの示す能力は、問題解決力や知的好奇心、問題点を把握する能力、問題点を正しく診断する能力、洞察力などが考えられ、内部データと外部データ、財務データと質的データを統合的な視点で把握することが不可欠になる。さらに、「Informed Intuitant」に不可欠な要素に、次の4点がある。
- プロジェクトチームの結成やプロジェクト管理、口頭や文書を通した対人コミュニケーションなどのコラボレーション能力
- 創造性を高め、枠にとらわれない発想を生み出す能力
- データアナリストについては、ビジネスに適した話し方や要約能力、データ可視化技術、分析結果を最高レベルの経営幹部に対して説明する能力
- 自身の学習法に合わせて実践や実験を通して必要な知識を身につけ、分析や意思決定能力を磨く能力
メリーランド大学ユニバーシティ・カレッジ校(UMUC)では2013年9月から、新たにオンラインで取得可能な科学修士(M.S.)の学位取得プログラムを設置した。同プログラムは、ビッグデータ時代に、基本的なものから応用的なものまで戦略的・戦術的な意思決定を支えるためのスキルを得ることを目的とする。産業データや製品データ、顧客データの量が増加する中、組織は大容量データセットを分析する能力を備え、隠れていた事実や解決策の発見、効果的な分析結果の提示や優れた分析サイクル管理に活用できる人材を必要としている。新たな学位の設置は、必要とされる分析経験やスキルに長けた人材の不足も補うだろう。
求める能力を備えた数学者や統計学者はいくらでもいる。しかし、ビジネスを理解し、分析結果について、最高経営幹部たちが完全に理解できるように説明する能力を持ったアナリストを見つけ出すことは、極めて困難だ
新たな学位プログラム構成する重要な要素のひとつは、本プログラム修了した学生が、「Informed Intuitant」として、分析結果と自身の判断を効果的に組み合わせられるようになることだ。最高幹部レベルの意思決定能力を養成するコースや、ハード・スキルを補うソフト・スキルを培うための訓練は、分析と洞察が織りなす正反対の関係に対処する能力を鍛える本プログラムを支える重要な要素だ。スターバックス・コーヒーでエンタープライズ・アナリティクス担当のディレクターを務めるJoe LaCugna氏は以前、「求める能力を備えた数学者や統計学者はいくらでもいる。しかし、ビジネスを理解し、分析結果について、最高経営幹部たちが完全に理解できるように説明する能力を持ったアナリストを見つけ出すことは、極めて困難だ」と私に教えてくれた。「Informed Intuitant」に表される、アナリストであると同時に意思決定者でもある人材を育成する過程では、まさにこのような試行錯誤が行われる。
組織が前進するにあたり、「Informed Intuitant」と呼べる人材は、組織の成長と繁栄を実現するために欠かせない存在になるだろう。経営のための直感を追求する試みは広がりつつあり、ビッグデータの展開がさらに進めば、分析と直感を融合させる挑戦は、最終的に多くの優れた意思決定者を生み出すだろう。われわれは教育者として、このような理想を持つからこそ、こうして新たなアナリティクス分野の学位プログラムを作り出す必要がある。
Jay Liebowitz博士は、メリーランド大学ユニバーシティ・カレッジ校の修士課程で客員教授(オルカンド・チェア・イン・マネジメント・アンド・テクノロジー)を務める。その著作に『Big Data and Business Analytics』(Taylor & Francis, 2013年出版)、『Business Analytics: An Introduction』(Taylor & Francis)、『Bursting the Big Data Bubble: The Case for Intuition-Based Decision Making』(2014年後半出版予定)などがある。