ニューラル・ネットワーク
概要と重要性
ニューラル・ネットワークの歴史
最初のニューラル・ネットワークは、1943年にウォーレン・マカロック(Warren McCulloch)氏とウォルター・ピッツ(Walter Pitts)氏によって考案されました。彼らはニューロンの動作について後世に大きな影響を与える論文を書き、電気回路を用いたシンプルなニューラル・ネットワークを作成することでそのアイデアをモデル化しました。
この画期的なモデルが、2つの領域でニューラル・ネットワークの研究に道を開きました。
脳内の生物学的プロセス
ニューラル・ネットワークの人工知能(AI)への応用
AIの研究は一気に加速し、1975年に福島邦彦氏が真の多階層ニューラル・ネットワークを初めて開発しました。
ニューラル・ネットワークというアプローチの当初の目標は、人間の脳と同じように問題を解決できるコンピューター・システムを開発することでした。しかし、時の経過とともに、研究者たちは特定のタスクに合わせてニューラル・ネットワークを活用する取り組みへとシフトし、厳密に生物学的なアプローチから逸脱していきました。それ以降、ニューラル・ネットワークはコンピューター・ビジョン、音声認識、機械翻訳、ソーシャル・ネットワークのフィルタリング、ボードゲームやテレビゲーム、医療診断など、多種多様なタスクをサポートするようになっています。
構造化/非構造化データの規模がともにビッグデータ級に増大したことを受け、ディープ・ラーニング・システムが開発されました。これは本質的に、多くの層で構成されるニューラル・ネットワークです。ディープ・ラーニングでは、非構造化データを含む、より大量、より大規模なデータを収集し、マイニングすることができます。
ニューラル・ネットワークが重要な理由
ニューラル・ネットワークは、人間が現実世界の複雑な問題を解決しようとするプロセスを支援する目的にも理想的です。ニューラル・ネットワークは、「入力と出力の間にある非線形かつ複雑な関係性の学習とモデル化」、「一般化と推論の実行」、「隠れた関係性やパターンの解明とそれに基づく予測の実行」、「変動性の高いデータ(金融時系列データなど)や希少な事象(不正検知など)の予測に必要な “分散のモデル化” 」などを行うことができます。その結果、ニューラル・ネットワークは以下のような領域で意思決定プロセスを改善するために役立ちます。
- クレジットカードやメディケアに関する不正の検知
- 交通運輸網のロジスティクスの最適化
- 文字認識や音声認識(自然言語処理としても知られています)
- 医療診断/疾病診断
- ターゲットを絞り込んだマーケティング
- 金融予測(株価、通貨、オプション、将来、破産、債券格付けなど)
- ロボット制御システム
- 電力負荷予測/エネルギー需要予測
- プロセス制御/品質制御
- 化合物の同定
- 生態系の評価
- 生の写真やビデオを解釈するためのコンピューター・ビジョン(例:医療画像処理、ロボット工学、顔認識)
ニューラル・ネットワークまたはモデルに関する私たちの最初の目標は、人間レベルの正確性を達成することです。そのレベルに到達するまでは、まだ改善の余地があることを忘れてはなりません。 アイヴァン・ゴメス(Ivan Gomez) データサイエンティスト Zencos社
ニューラル・ネットワークのタイプ
ディープ・ニューラル・ネットワークには様々なタイプがあり、それぞれに長所と短所があり、適している用途も異なります。以下はその一部です。
- 畳み込みニューラル・ネットワーク(CNN)には、入力、畳み込み、プーリング、全結合、出力という5種類の層があります。それぞれの層には、要約、結合、活性化といった特定の目的があります。畳み込みニューラル・ネットワークは、画像分類や物体検出の認知度向上に貢献しました。しかし、CNNは自然言語処理や予測など、他の領域にも応用されています。
- リカレント・ニューラル・ネットワーク(RNN)は、センサーデバイスから収集されたタイムスタンプ付きのデータや、話された文章(語のシーケンス)など、シーケンシャルな情報を扱います。従来のニューラル・ネットワークの場合と異なり、RNNへの全ての入力は相互に独立しておらず、各要素の出力がどうあるべきかは、それに先行する要素の計算結果に依存します。RNNは、予測や時系列分析のほか、センチメント分析やその他のテキスト分析などの応用領域で活用されています。
- フィードフォワード(順伝播型)・ニューラル・ネットワークでは、ある層の各パーセプトロンが次の層の全てのパーセプトロンに結合されます。情報は、ある層から次の層へと、順方向のみに伝えられていきます。フィードバック・ループは存在しません。
- オートエンコーダ・ニューラル・ネットワークは、与えられた入力のセットからエンコーダと呼ばれる抽象化処理を作成するために使用されます。従来型のニューラル・ネットワークと似ていますが、オートエンコーダが目指すのは入力自体をモデル化することであり、従って、教師なしの手法と考えられます。オートエンコーダの前提は、関連性の低い情報には鈍感になり、関連性の高い情報には敏感になることです。層を追加していくと、より高次の層(デコーダ層が導入される場所に近い層)ほど、さらなる抽象化が定式化されます。これらの抽象化はその後、線形または非線形の分類器で使用することができます。
ニューラル・ネットワークの最新動向
ニューラル・ネットワークは、人間や組織がシステムと情報をやり取りする方法、課題を解決する方法、より的確な意思決定や予測を行う方法を変革しつつあります。ニューラル・ネットワークの活用効果について、ぜひ詳細をご確認ください。
ニューラル・ネットワークで群れの健康を維持
ある熱意に溢れたデータサイエンティストが、象の結核を検知するためにニューラル・ネットワークを活用しています。彼女の研究は結核の感染拡大の防止にどのように役立つのでしょうか?
ニューラル・ネットワーク・モデリングを学ぶ
適切なニューラル・ネットワーク・アーキテクチャを選択する方法、適切なトレーニング手法を判断する方法、ニューラル・ネットワーク・モデルを分散コンピューティング環境に実装する方法、NEURALプロシジャを用いて独自のニューラル・ネットワークを構築する方法について学ぶことができます。
ディープ・ラーニングをSAS®で実践する方法
ディープ・ラーニングの手法と応用について、より技術的な概要情報をお探しなら、このホワイトペーパーをお読みください。SASがいかにディープ・ニューラル・ネットワーク・モデルの作成をサポートするかを説明しています。
ニューラル・ネットワークの業種別用途
ディープ・ラーニング・システム(および、それを可能にするニューラル・ネットワーク)は、数多くの業種や業務部門/事業部門で戦略的に活用されています。
ホテル・カジノ
医療業界やライフサイエンス業界の組織は、予測診断、生物医学画像処理、健康状態モニタリングを実現するためにニューラル・ネットワークを活用しています。
製造
エネルギー企業や製造企業は、サプライチェーンの最適化、欠陥検知の自動化、エネルギー需要の予測にニューラル・ネットワークを活用しています。
銀行・金融
銀行をはじめとする金融業界では、不正の検知、信用分析の実施、ファイナンシャル・アドバイザー・サービスの自動化などの目的でニューラル・ネットワークを活用しています。
官公庁
行政機関や公共機関では、スマートシティー、セキュリティ・インテリジェンス、顔認識をサポートするためにニューラル・ネットワークを活用しています。
通信、小売
通信業界と小売業界は、会話型チャットボットの実現、カスタマー・インテリジェンスの強化と深化、ネットワーク分析の実行などの目的でニューラル・ネットワークを活用しています。
このテクノロジーを活用している業種の詳細情報
- Automotive
- Banking
- Capital Markets
- Casinos
- Communications
- Consumer Goods
- Defense & Security
- Government
- Health Care
- Health Insurance
- High-Tech Manufacturing
- Higher Education
- Hotels
- Insurance
- Life Sciences
- Manufacturing
- Media
- Midsize Business
- Oil & Gas
- P-12 Education
- Retail Analytics
- Sports Analytics
- Travel & Transportation
- Utilities
ニューラル・ネットワークは変則性を特定することができます。将来的には、医師にセカンド・オピニオンを提供するために活用できます。例えば、ガンなのか、未知の別の問題なのかを判断するような場面です。こうしたセカンド・オピニオンを、より迅速かつ正確に提供できるようになります。 リー・アン・ヘルホルト(Leigh Ann Herhold) データサイエンティスト Zencos社
ニューラル・ネットワーク・モデルの構築
このビデオでは、SAS® Visual Data Mining and Machine Learningをニューラル・ネットワークのコンテキストで活用する方法を説明します。例として取り上げているのは、Webサイトの訪問者に行動を促す要因と、訪問者がIT企業のサイトからホワイトペーパーをダウンロードする理由を検討するためのモデルです。
ニューラル・ネットワークの仕組み
最もシンプルなニューラル・ネットワークには、入力層、出力層(ターゲット層)、および、その間の隠れ層が、それぞれ1つずつあります(右図では隠れ層が2つあります)。各層はノードを通じて結合され、これらの結合によって、各ノードが相互接続された「ネットワーク」が形成されます。それがニューラル・ネットワークです。
ノードは人間の脳のニューロン(神経細胞)を模したもので、ニューロンの振る舞いと同様、ノードは十分な刺激(入力)が与えられると活性化します。この活性化がネットワーク全体に広がっていき、その結果として、当初の刺激に対する反応(出力)が生み出されます。これらの人工ニューロン間の結合はシンプルなシナプスとして機能し、信号が1つのニューロンから別のニューロンに伝達されることを可能にします。信号は最初の入力層から最後の出力層へと各層を縦断しながら伝わっていき、その途中で処理されます。
解決すべき要求や課題が与えられると、ニューロンは数理計算を実行し、次のニューロンに渡すのに十分な情報が存在するかどうかを明らかにします。もっと簡潔に言うと、ニューロンは全てのデータを読み取り、最も強い関係性がどこに存在するかを明らかにします。最もシンプルなタイプのネットワークの場合、ニューロンは、受け取った入力データを加算していき、その合計が所定の閾値を超えると「発火」し、自身と連結しているニューロン群を活性化させます。
ニューラル・ネットワークに含まれる隠れ層の数が増えると、階層構造がより深く(ディープ)になるため、「ディープ・ニューラル・ネットワーク」と呼ばれますディープ・ラーニングのアーキテクチャは、シンプルなニューラル・ネットワークを次のレベルへと進化させます。多数の隠れ層を利用することで、データサイエンティストは独自のディープ・ラーニング・ネットワークを構築することができ、それによって実現する機械学習を用いて、音声認識、画像識別、予測など人間が行うようなタスクを正確にエミュレート(疑似的に模倣)するようにコンピューターをトレーンニングすることができます。同様に重要な点は、コンピューターが自律的に、何層もの処理を用いた特徴抽出・パターン認識を学習できるようになることです。
では、この定義が実際にどのように動作するのかを見てみましょう。まず、データが入力層を通じてネットワークに与えられ、入力層はそれを隠れ層(複数ある場合は最初の隠れ層)に伝達します。隠れ層における処理は、重みづけ結合のシステムを通じて行われます。隠れ層の各ノードでは、入力層から受け取ったデータと係数の集合を組み合わせ、適切な重みを入力に割り当てた上で、これらの「入力×重み」の積を合計します。この合計値は、ノードの活性化関数を通じて次の隠れ層(のノード群)に渡されます(活性化関数は、最終出力に影響を及ぼすための信号強度を決定します)。最終的に、(最後の)隠れ層は出力層と結合し、そこから出力を取得できます。
ニューラル・ネットワーク向けの注目製品
SAS® Visual Data Mining and Machine Learning
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