ノースカロライナ州保険局(NC DOI)がこの事例で活用した製品 • SAS® Visual Investigator • SAS® Visual Analytics • SAS® Law Enforcement Intelligence(いずれも実行基盤はSAS® Viya®、導入展開基盤はSAS® Cloud)
米ノースカロライナ州保険局、不正検知を向上させ、受付から起訴までの調査を追跡管理するために、SAS Cloud上で保険犯罪調査システムを実行
あなたは週末を過ごすために両親の家に到着したところだ。二人とも数年前に仕事を引退し、自由気ままな生活を楽しんでいるが、あなたは家事を手伝うのが好きで、定期的に訪問しては二人が元気であることを確認している。家に入る途中、今日の郵便物を回収すると、封筒の一つがあなたの注意を引く。それはあなたの母親宛の、医療保険会社からの給付金説明書のようだ〔訳注:米国では高齢者、障害者、低所得者以外は、日本における “健康保険” についても民間保険会社を利用するのが一般的〕。だが、彼女は健康であり、最近は何の医療処置も受けていない。一緒に書類の内容を確認したところ、彼女が実際には受けていない医療サービスや医療機器(車椅子や酸素ボンベなど)の課金項目が延々と繰り返されており、彼女の知らない事業者が請求元であることを発見する。明らかに何かがおかしい・・・。
昨今は、この例のような医療保険金不正があまりに高い頻度で発生しており、こうした手口のターゲットとなるのは多くの場合、高齢の市民たちだ。詐欺師は署名を偽造したり腐敗した医師を買収したりすることによって、医療機器メーカーや医療提供事業者が “実際には不要だった、あるいは注文していなかった医療用品や医療サービス” に対する請求書を保険会社宛てに発行するように仕向けることができる。その結果、不正犯罪者が金銭を手に入れる一方で、被害者側には金銭的および感情的な悪影響が残ることになる。
残念ながら、保険金不正は日常的に発生している。控え目な推定でも、すべての保険金請求のうち10%は何らかの程度の不正を含んでおり、米国ではこの詐欺によって毎年1,200億ドルの損失が生じている。悲しいことに、この詐欺行為の代償を「保険料の上昇」という形で支払わなければならないのは、法を遵守している市民たちだ。
米ノースカロライナ州では、州の保険局(North Carolina Department of Insurance; NC DOI)が保険市場の秩序維持とコスト削減の促進に奮闘している。同局の犯罪調査部門(Criminal Investigation Division; CID)は、犯罪調査の実施と保険金不正犯の起訴支援にあたる不正対策部隊として、この闘いの一翼を担っている。
しかし、以前は一つだけ問題があった。CIDの記録管理システムは時代遅れとなっており、冗長な運用管理タスクによって調査業務が複雑化し、スタッフは泥沼にはまっている状況だった。CIDは記録管理に対するアプローチを刷新する必要があった。同部門がSASの導入に踏み切ったのは、それがきっかけだった。
ICISの実装後、わずか7ヶ月で、我々はノースカロライナ州の消費者のために690万ドルを取り戻しました。この結果は、このプログラムの成功を示しているほか、それにより我々のフィールド・ケース調査体制全般(担当者、オペレーションを含む)が業務遂行面でどれほど盤石化したかを示しています。 Chet Effler Division Chief for the Criminal Investigation Division North Carolina Department of Insurance
古風な手作業のプロセスが業務の進行を妨げていた
CIDでは毎年、不正が疑われる保険金請求を5,000件ほど受け取る。しかし、彼らの用語で言うところの「インテイク(intake、受付)」(=受け取った保険金請求)のすべてが「調査対象のケース」となるわけではない。CIDの仕事の一部は、インテイクをトリアージし、どれが最も起訴にまで至りそうかを判断した上で、それらのケースを適切な管区に転送することだ。
以前は、CIDの監督担当者がすべてのインテイクのレビューと転送を手作業で行う必要があった。CIDの部長であるチェット・エフラー(Chet Effler)氏にとっては、これが物事を遅くする原因だった。また、担当者たちがすべての調査、ケースワーク、起訴手続きを手作業で行う必要があった点も同様である。
「ケースが向かう先にあるのは、法執行向けに設計されていない、そして間違いなく調査記録管理向けには設計されていないリポジトリでした」と、エフラー氏は言う。「我々は情報を溜め込んでいただけであり、それを分析することは本当にできていませんでした。データがあまりに構造化されていないため、検索に関してさえ、信頼できる状態ではなかったのです。」
月末になると、CIDにとってのもう一つの課題セットに直面した。毎月、調査担当者はケース数、逮捕者数などのパフォーマンス指標を報告する必要があった。平均的なケースファイルの規模が2,000ページに及ぶなか、報告要件を満たすための作業に3日かかることも少なくなかった。
エフラー氏は次のように説明する。「我々のプロセスは山のような書類仕事を生み出し、それが我々の成功の障害となっていました。調査担当者たちは、あまりに多くの時間をExcelに費やしており、不正との闘いに十分な時間を投じていなかったのです。」
新しいシステムをゼロから構築する
CIDの規模拡張プロジェクトの一環として、テクノロジーにフォーカスが当てられた。具体的には、どうすれば新しいシステムはすべての要件に対応できるのか、という点が焦点だった。
ここで登場するのが、保険部門で上席副部長を務めているマーティ・サムナー(Marty Sumner)氏である。新しいシステムを見つける仕事を任されたサムナー氏は、州の行政データ・アナリティクス・センター(Government Data Analytics Center; GDAC)にガイダンスを求めた。GDACは行政機関が既存のデータ資産を有効利用できるよう支援するべく、行政用システムについて俯瞰的な視野を維持している。GDACがサムナー氏に紹介したのはSASだった。
「私は市場でさまざまな製品を目にしましたが、SASは警察記録管理に限らず、各種の調査向けのカスタマイズ性が最も優れているように思われました」と、サムナー氏は言う。「私がSASに連絡を取ると、彼らは大歓迎してくれました。彼らは膨大なセキュリティ知識を持つハイレベルな企業として評判ですが、私が最も感銘を受けたのは彼らのカスタマー・サービスでした。」
サムナー氏と彼のチームは、既製品のソリューションでは不十分であることを理解していた。彼らが必要としていたのは、"マネージャーから調査担当者、起訴担当者に至るまで、部内全員のニーズを満たす特注のシステム" だった。そして、CIDとSASのエキスパート陣による協働型の計画プロセスを経て、新しいシステムは産声を上げた。
保険金不正の調査・起訴方法を改善
CIDは、保険金不正の調査業務と起訴業務を改善するべくICIS(Insurance Crimes Investigation System、保険犯罪調査システム)を構築した。このシステムはSAS Visual InvestigatorとSAS Visual Analyticsを用いてデータの取り込みと調査ケースの管理をサポートすることで、ユーザーが受付から起訴までの調査活動を追跡管理できるようにする。今ではユーザーは、トレンドのリアルタイム・モニタリング、情報の検索と取得、ネットワーク分析の実施などを一元的かつ効率的に行えるようになり、CIDに送られてくるすべてのケースの調査をこなすことができている。
不正が疑われるケースは使いやすいオンライン・インターフェイスを通じて送信されるが、それらは即座にアルゴリズムによって適切な管区へと転送される。現在、平均的なケースは送信から24時間以内に調査担当者の受信ボックスに届く。
「今はSAS Visual Investigatorでケースを管理しています」と、エフラー氏は言う。「追跡管理に加え、エビデンスの入力や、企業向けの規制要件の入力もそこで行います。調査活動のあらゆる要素の完璧な収容場所です。一方、SAS Visual Analyticsは、運用管理者や私のような職員が作業負荷の動態、物事の状況、我々の対応状況を分析するために利用しています。」
「ICISシステムは、一から十まで、我々のニーズに特化して設計されています」と付け加えるのは、CIDの管区長であるクリステン・マーサー(Kristen Mercer)氏だ。「データが入ってくると、それは即座に適切な管区、適切な監督担当者へと向かいます。これにより、私の仕事は格段に効率化します。なぜなら、私のところにはすべての関連するインテイクが届きますが、どれを調査担当者に回すべきかを見極めるために私自身がケースを精査する必要がないからです。」
マーサー氏は1回のクリックだけで、複数のケースを複数の調査担当者に割り当てることができる。そこを起点として、ICISは個々のケースについて、あらゆる情報要素 ── あらゆるインタビュー、あらゆるエビデンス、あらゆる書類 ── を保管していく。そして、これが「正確かつ一元的な情報源」となる。
SAS Visual Investigatorは、ユーザーが例えば “自動車事故の偽装を企てる詐欺仲間” のような “隠れたつながり” を特定することを可能にする。調査担当者はネットワーク図のタブをクリックするだけで、さまざまなケースが共通の住所、電話番号、Eメール、さらには、人間の目をすり抜ける可能性があるその他の変数を通じて、どのように相互にリンクしているかを把握することができる。
マーサー氏は次のように言う。「これは極めて重要です。ほとんどの不正は単独犯ではありませんから。SAS Visual Investigatorのおかげで我々はケース間のリンクを解明することができ、その結果、不正を根元から断つことができます。」
ノースカロライナ州保険局に関する事実と数字
5,000
不正が疑われる保険金請求の年間受領件数
10%
保険金請求が不正である比率
98.7%
ケースの調査期日の遵守率
ビジュアル・アナリティクスで明快な全体像を把握
ICISのもう一つの貴重な特長はトレンドを把握できる機能だ。これは、ハリケーンの襲来後、財産保険金の請求が短期間のうちに殺到しかねないノースカロライナのような州では特に有用である。自然災害が発生したときも、犯罪者が遠ざかるわけではない。
「SAS Visual Analyticsは、都市部と村落部の両方で “ホットスポット” や不正集団の動きを識別・追跡するため役立ちます。なぜなら、多くの場合、それらは両方にまたがっているからです」と、エフラー氏は言う。
そのため、詐欺を企てる者たちが来訪した場合、CIDの調査担当者は、詐欺が疑われる複数の保険金請求をリアルタイムで結びつけて分析し、“レビューするべきケース” を隔離することができる。
また、SAS Visual Analyticsはレポーティングの合理化/効率化にも役立つ。以前は、毎月の報告書を手作業でまとめ上げるために調査担当者たちは7日間を費やしていた。今ではマネージャー自身が、わずか7分間でレポートを生成することができる。
「これは調査担当者たちに対し、ノースカロライナ州が彼らに求める役割 ── つまり、保険金詐欺の容疑者を逮捕すること ── に集中するための、より大きな自由をもたらします」と、マーサー氏は言う。「このシステムの最大の強みの一つは、簡単な操作でデータを引き出して、システムの運用メリットや、我々の仕事の効果の度合いを示すことができる点です。」
7ヶ月で690万ドルを回収
生産性の向上と、調査担当者のパフォーマンスに関する可視性の向上は、いくつかの特筆すべき成果につながっている。
ICISを導入する前、調査担当者たちのケース調査期日の遵守率は60%前後に留まっていたが、新システムの導入後は98.7%へと跳ね上がったのだ。この大幅な効率向上のおかげで、ケースの解決にかかる期間の平均が90日から57日へと減少し、CIDはより多くのケースを調査できるようになった。
エフラー氏はこう説明する。「ICISの実装後、わずか7ヶ月で、我々はノースカロライナ州の消費者のために690万ドルを取り戻しました。この結果は、このプログラムの成功を示しているほか、それにより我々のフィールド・ケース調査体制全般(担当者、オペレーションを含む)が業務遂行面でどれほど盤石化したかを示しています。」
SAS Cloudによる容易なアクセス
ICISをSAS Cloudにホスティングしているおかげで、CIDの職員はインターネットが利用できる場所であればどこからでも、ケース記録に安全かつセキュアにアクセスできる。これは、COVID-19パンデミック期間中、調査担当者たちが州全体に分散し、電話中心のリモートワークに従事していたときには特に有用だった。
エフラー氏は言う。「ファイルにアクセスできることは極めて重要ですが、それらのファイルのセキュリティも同様です。SASは、我々が政府のセキュリティ対策要件を遵守できるよう支援しながら、我々が必要とするアクセスも実現してくれます。」
アクセスの容易さを脇に置けば、このシステムが好評なもう一つの理由は優れたユーザー体験だ。サムナー氏は言う。「このプラットフォームについて私が最も気に入っていることの一つは、その簡単さです。これを利用するにあたり、広範囲のトレーニングは不要です。職員たちは、毎日使うヘビーユーザーにならなくても、自分に必要なものを見つけ出すことができます。」
実際、サムナー氏の話によると、ICISへの移行に関するすべての物事が容易に進んできたようだ。
彼は次のように言う。「SASは奇跡的な仕事を通じて、我々のニーズを完全に分析し、素晴らしいチームを編成し、我々が夢見ていたシステムを実現してくれました。このような新しいシステムの実装には数年かかる可能性もありますが、SASは数ヶ月で楽々とそれを成し遂げたのです。」
SAS Cloudの追加的なメリットには以下が含まれる。
- 単一のプロバイダーで完結: 企業や組織が独力で環境を実行・管理する場合は、別々のサービス内容合意書(SLA)を提供する複数のベンダーと付き合うことになる。また、さまざまな部門がそれぞれの環境をサポートすることになる。それに対し、NC DOIのようにSAS Cloudを利用すれば、単一のSLAで単一のベンダーと付き合うだけで済むようになり、インシデントがより迅速に解決される体制を確保することができる。
- 俊敏性の向上: クラウド上のSAS環境の最適化と管理はSASが行うため、そのことに伴うメリットもNC DOIは享受できる。調査担当者は運用チーム、顧客連絡窓口、テクニカル・アカウント・マネージャーを通じてSASの専門知識に容易にアクセスすることができる。
- 高度な可用性: 99%の可用性を保証するSLAとSASの最高水準の人材の組み合わせにより、NC DOIは「極めて重要なプロセスの生産性向上とリスク削減に寄与する、優れた回復弾力性と高度な可用性を備えたアナリティクス環境」を手に入れることができる。
将来についての好奇心は健在
サムナー氏にとって、好奇心はプロジェクトの初日から一貫して、原動力であり続けている。
「我々は3つの疑問を自問することから始めました」と、彼は言う。「我々は今、何を知っているのか? 我々は何を知る必要があるのか? そして、どうすればそれを達成できるのか?」
これらの質問がICISの開発を導いたのだった。ICISが稼働中の今、サムナー氏の好奇心の対象は既に、“ノースカロライナにおける保険金不正の真のコストについて学習すること” へと移っている。これには金銭的な損失だけでなく、社会的な損失も含まれる。サムナー氏はそれに関する理解・洞察を得るために、同州における保険金不正の影響をより包括的に把握するべく保険会社や他の行政機関のデータを統合することを計画している。
その一方で、エフラー氏と彼のチームは最近、ICISを用いて、全国的な影響を伴う新しいタイプの不正を発見した。
「我々はその不正がノースカロライナ州だけの問題でないことを理解しています。これは国家的問題です」と、エフラー氏は言う。「我々は今、この特定のケースの影響を明らかにするべく、連邦検事局や全国の民間企業に協力を依頼しているところです。SASなしでは、以上のどれ一つとして可能ではなかったでしょう。」
本記事に掲載された導入効果は、各企業によって異なる状況やビジネスモデル、入力データ、業務環境に固有のものです。SASの紹介する顧客体験は、各企業に固有のものであり、業務面や技術面の背景もそれぞれ異なるため、各事例に掲載されたあらゆる証言は、導入の典型例を示すものではありません。導入にともなう金銭的効果、導入結果、ソリューションのパフォーマンスなどの特徴は、個別の顧客のコンフィグレーションや使用条件に左右されるものです。本事例は、すべてのSASの顧客が当該事例と同じ導入効果を得られるとするものではなく、そうした効果を保証するものでもありません。SAS製品および提供サービスの保証内容は、各製品・サービス向けに締結された契約書内の保証条項に記載された内容に限られます。したがって、本事例に掲載された内容は、それらの保証内容をなんら補足するものではありません。事例に掲載された顧客は、各事例をSASとの契約にもとづいて提供しているか、SASのソフトウェアの導入成功にともなう体験を共有しているものです。