株式会社村田製作所
生産現場における歩留り改善をSAS® Quality Lifecycle Analysisによる科学的管理で実現
村田製作所は、セラミックコンデンサで世界トップシェアを誇る電子部品メーカーだ。コンデンサをはじめ、インダクタ(コイル)、抵抗器、フィルタ、センサーなど、同社の製品は私たちの身近にあるさまざまなAV機器や自動車に組み込まれている。近年はスマートフォン向けのビジネスが大きく伸びており、500を越える同社製品が組み込まれた機種も多数あるという。同社は、長く続けてきた生産工程における歩留り改善をSAS® Quality Lifecycle Analysisの導入によって飛躍させた。
センサーデータを含むビッグデータを分析したい
村田製作所の社是には、「科学的管理を実践し」という言葉がある。創業以来、脈々 と受け継がれてきたこの企業文化は、生産工程の科学的管理にいち早くITを取り入れたことからも見て取れる。1990年代には業界に先駆けて品質管理のベースシステム「PRASS」を稼働させ生産現場で発生するあらゆるデータを収集するようにした。
モノづくり技術統括部 モノづくり強化推進部 生産革新2課 課長 宮森 誠氏は、「PRASSの目的は、生産の可視化による歩留りの改善でした。データを見て何かに気づき、それを成果につなげる、というやり方による三現主義(現場、現物、現実)です。」と語る。
電子部品の生産プロセスは長く、工程ごとに責任者がつく。当時から各工程の責任者は、データの重要性を理解しており、企業としても正確なデータを得るために 高品質な測定器への投資は惜しまなかった。さらなる改善を目指すためにはプロセスという枠を越えて全体を把握する1つの情報基盤が必要という結論が、 PRASSとして結実したのだ。これによりQCD(品質、コスト、納期)の各要素にかかわる問題を解決するための的確で迅速なアクションが可能となった。
次のテーマはより高性能なデータマイニングだった。モノづくり強化推進部 生産革新2課 係長 下八重 修氏は、「最初のステップとしてツールを使って一部のデータ連携を行い、解析するプロセスを作りました。しかし完全にニーズをみたすためには扱えるデータ 量に課題が残りました。またデータ連携ツールは高額で、そのまま全社展開するのは困難でした。」と振り返る。さらに「例えば設備内部ではない外的な要素が 問題を生むケースもあります」と宮森氏は話す。「ある程度温度が上がると不良率が高まる、という体感はあっても、"何度以上で起こる"と数値化するのがデータの力。その場合、外気温や工場内の温度に加え、各種工場施設で計測している温度データも分析に取り入れますから、データマイニングの対象になる要素 数はいくらでも増えていきます」。設備の細やかなセンサー情報などPRASS以外のデータの取り込みやクレンジングに時間がかかるのも悩みの種だった。これらのビッグデータをより効率良くマイニングしたいというニーズの高まりを受け、2011年にSAS Quality Lifecycle Analysisの導入を決めた。
「当社は思い切った投資をしますが、成果にはシビアです。SASの担当の方から何度も話を聞き、さまざまな事例を検証したことで、必ず効果を出せると確信することができました」(宮森氏)
SAS Quality Lifecycle Analysisの導入でより俯瞰的かつ精緻な分析を可能に
SAS Quality Lifecycle Analysisの稼働で格段に効率がアップしたのは、データ連携の部分だ。SAS Quality Lifecycle Analysisは各工場で管理されているデータに対して一元的にアクセスする機能を提供し、いわばデータウェアハウスのハブ機能になった為、ユーザーのデスクトップ環境上から必要なデータを自由に取得できるようになった。これにより工程間を跨ったデータを作り込むための時間は大幅に減った。それに伴い、改善提案のためのミーティング内容も変わってきた。以前はデータの作り込み方や集め方に時間を割いてきたが、導入後は「どうやって分析するか、何と比較して検証するか」という要因分析に直結する内容になった。分析を行う前のデータ準備作業が効率的になった事で、例えば別工場の似た工程のデータを使って分析するなど、業務や現場の知見を十分に取り込む分析に専念できるようになったのだ。
分析にあたっては、主に2変量の関係を見るようにしている。まれに、最終的な因子の関係を解明するために重回帰分析を行うこともあるが、ほとんどの問題は2変量の関係から解決できるという。
下八重氏は、「データの分布を見ているだけで興味深いですし、芸術的なカーブが出てきて驚くこともあります。実際にやっていると、統計学の教科書に出てくるような正規分布を見ることはほとんどありません」と話す。業務知識を重ねてデータを見て、芸術的なカーブになっている原因を考える。統計学だけではなく現場への知見を通じて、問題への解決策を導き出す。「仮に同じ製造工程であっても、不良率の分布の異なる2つの品目があれば、当然攻め方も変わってきます。われわれの目的は問題を解決することであって、統計学を極めることではありません。」(宮森氏)
6000億円の1%を改善するだけで、60億円に相当する効果
村田製作所は、特注部品に強みを持つ。顧客のニーズをみたすために、さまざまな仕様で微細な電子部品を生産し、年間に約6000億円を売り上げる。コンデンサだけで品目数は数万の製品数があり、月産数百億個の電子部品を出荷する。それぞれが別の工程で作られ、工程ごとに影響を受ける要因は異なる。そして、それを肌で感じている現場の意見は、分析を行うためのベースになる。
「分析対象には、気温やパイプの水温、空気中に含まれる粒子なども含まれます。ですから分析を行うにあたって最も大切なのは、きちんと現場を見ることです。課題のヒアリングには技術の専門家に同行してもらい、意見をもらいます。現場を見た上で、見た目ではわからない特性をデータで探るのです」(下八重氏)
宮森氏は、「SAS Quality Lifecycle Analysisの優れた部分は、分析者の意図に応じたデータを柔軟に作成し、自由自在に分析できるところにあります。PRASSに入っていないデータでも、現場の技術者が収集していることがありますから、そうしたデータを組み合わせてさまざまな視点で分析できるようになりました」と話す。
現場は、分析に時間を割くことは難しい。そこをサポートするのが、モノづくり強化推進部の役割になる。現場の知識を得た上で、素材が最終製品になるまでの長いプロセスを俯瞰的な視点とプロセス個別の視点で分析する。技術的知見と解析結果をすり合わせた上で設備を見に行き、現場の人たちと科学的な根拠を示しながら会話することが、改善活動を進めるベースになるのだ。
システムのROIについてはどうだろう。宮森氏は、「詳しい数字は言えない」としながらも、「SAS Quality Lifecycle Analysisで分析している村田製作所のビジネス規模は6000億円。仮にその1%に貢献すれば60億円の価値になる。0.1%でも6億円になります。だからこそ多様でかつ大量なビッグデータで細部を探る必要があるのです。」と話す。
同社はPRASSを構築して以降も堅実なシステム投資を行い、その成果をものにしてきた。データマイニングへの理解を深め、SAS Quality Lifecycle Analysisが飛躍的な成果をもたらしたのだ。"科学的管理"による改善活動を行う同社にとって、SASは業界トップの地位を守るための武器であり続けるだろう。
課題
各種工場施設で計測・管理するセンサーデータを含めたビッグデータをより効率良くマイニングし、生産現場の歩留りを改善することが求められた
ソリューション
デスクトップ環境上から必要なデータを自由に取得し、分析を行う前のデータ準備作業を効率化。業務や現場の知見を十分に取り込む分析に専念できる体制を整備した
利点
気温やパイプの水温などのセンサーデータ、現場の技術者が収集しているデータを組み合わせ、さまざまな視点で分析できるようになった。技術的視点と統計結果をすり合わせた上で生産現場の改善活動を行っている