公益財団法人がん集学的治療研究財団
SASによる統計解析をベースに、安全かつ効果的ながん治療法を開発
統計学の素養が実践的なSASスキル習得の土台に
公益財団法人がん集学的治療研究財団(以下JFMC)は30年以上にわたり、がんの集学的治療に関連する臨床試験で得られたデータの集計・分析にSASを利用している。広範な統計手法と優れたデータハンドリング能力を備え、一度記述したSASプログラムを情報資産として保有・再利用しやすいことを高く評価しているためだ。実際、投薬が患者に与える効果や副作用を科学的に検証し、より安全かつ効果的ながんの治療法を開発するのにSASは欠かせない。JFMCは、今後さらにSASの活用を深め、臨床試験プロセスのさらなる合理化を目指す。
「データ解析に高い精度が求められる臨床分野では、SASがデファクト・スタンダードです。広範な統計手法を扱える上に、一度記述したプログラムを情報資産として保有・再利用しやすい点を評価しています」
佐藤 康仁氏
東京女子医科大学 衛生学公衆衛生学第二講座 講師
東京女子医科大学病院 臨床研究支援センター 生物統計・データ管理室 室長
高品質な臨床試験データを分析できる体制を確立
JFMCは、がんの集学的治療に関連する多施設共同臨床研究において中核的な役割を担う組織だ。すでに上市された薬品を使った臨床研究の企画・実施、一般から募った臨床研究の審査・助成、全国の医療機関から収集した臨床試験データの統計解析、および結果の公知を行う。同組織では、手術、内科的治療による治療を組み合わせた集学的治療を研究・試験の対象とする。集学的治療法における投薬が患者に与える効果や副作用を科学的に検証し、より安全かつ効果的ながんの治療法を解明するのが大きな役割だ。
財団法人がん集学的治療研究財団では、2003年に、岐阜大学名誉教授であり、現理事長である佐治 重豊 先生の提唱による『患者にやさしい癌薬物療法』を目標に掲げ、全国の医療機関を対象とした臨床試験を実施している。この中では、低用量の抗がん剤による治療の有用性の検証や、術後の生活の質を高く保つ治療法の評価などを行い、患者のQOL(Quality of Life)を第一義とした治療法の開発を目指している。今後は治療開始前に効果を予測できるバイオマーカーや遺伝子特性に基づくがん関連因子群などを考慮した個別化治療への展開が、次世代型がん治療法として同財団が取り組むべき最重要課題と認識している。
臨床研究を実施するにあたっては、医師や製薬企業からテーマを公募し、実行委員会を組織編制し研究の必要性・科学性・実行性にかなうテーマが臨床試験審査委員会および倫理委員会で審議される。そこでは実施計画書(プロトコール)やアウトカムについて検討され、倫理性の観点でも要件を満たしたテーマだけが実施に至る。
審査が通ると、全国の医療機関に臨床試験の実施をアナウンスし、1試験につき平均180ほどの医療機関が参加。年間に集められる症例数は1000例に迫る。結果として得られる投薬履歴や治療経過、副作用の有無、生存率などのデータがEDC(Electronic Data Capture)システムや紙の報告書でJFMCの中央事務局に集約される流れだ。
JFMC データセンターでは、臨床試験の実施計画書が、各実施医療機関によって、標準業務手順書などのさまざまな規制要件に則って実施・記録・報告されていることをチェックする。一方で、問題点を医師にフィードバックするモニタリング業務や、必要な情報を円滑に参加施設へ報告する業務を担うデータマネジャーを配置している。これにより臨床試験のコンプライアンスを維持し、各種症例報告書の精度を担保している。
JFMCのデータセンターは、集められた臨床試験データに不備・矛盾点がないことをJFMCの統計解析責任者との意見交換を通じて確認し、データベースに投入する。こうして品質を確保したデータは、SASによって集計・分析されることになる。
臨床分野でのSASの活用は常識
JFMCは、母体である胃癌手術の化学療法研究会のころから30年以上にもわたってSASを活用している。それは単にSASの習熟度が高いからではない。一度記述したSASプログラムを情報資産として保有・再利用しやすいことを評価しているためだ。実際、すべての臨床試験のデータ処理についてゼロからプログラムを記述する必要がないため、統計業務の工数を大幅に削減することができる。
JFMCデータセンター 伊藤 技子氏は、「学生時代からSASを知っていたものの扱った経験はなく、当時は難しそうというイメージを持っていました。現職ではじめてプログラムベースのSASを使用し、実践的なスキルをすぐに身につけることができるソフトという印象に変わりました。SASは、これまで経験してきたツールに比べ、データハンドリング能力が突出しており、より広範な統計手法を扱えます。いまや、統計解析の実行にあたりSAS以外の選択肢は考えられません」と語る。
同財団のアドバイザーを務める東京女子医科大学 衛生学公衆衛生学第二講座 講師 東京女子医科大学病院 臨床研究支援センター 生物統計・データ管理室 室長 佐藤 康仁氏は、「データ解析に高い精度が求められる臨床分野では、SASがデファクト・スタンダードになっています。研究論文の作成でSASを用いるのは常識です。サポートも手厚く、われわれのさまざまな要望にいつも親身にこたえてくれるSASはわれわれの心強い味方です」と話している。
SASはあらゆる統計解析ニーズを満たしてくれる
統計解析に特化したSASは、プログラムを記述することで最新の統計解析手法を扱える。また、プログラムを実行した際の途中経過やエラー、操作記録などをログとして残し、監査証跡として使える。すでに、JFMCの業務の一部として、完全に定着している。
佐藤氏は、「教育者の立場から言うと、フリーの統計ソフトはデータ処理に際して膨大なプログラムを記述せねばならず、初心者が使うには高いハードルをクリアしなくてはなりません。一方、SASはGUIで直感的に操作できるSAS® Enterprise Guide®ををより高度な分析を行うための入り口として活用できます。学生にとって、大量データの読み込みも速く、あらゆる統計解析業務を網羅的にカバーできるSASを学ぶのが最良の選択と言えます」と話す。
JFMCは今後、データマネジメント、モニタリング、統計解析、結果の公知に至る臨床試験プロセスのさらなる合理化を目指す。束岡氏は、「現状、収集した症例データは用途に応じ加工していますが、多くの人手を割かざるを得ないのが実態です。このため、SASデータセットを準備してプロシージャを実行するだけでモニタリングレポートを作成できる体制の整備、ビジュアルな図やグラフでデータを表示・出力できる仕組みの導入を検討しています。患者にやさしい癌薬物療法の確立と普及において、今後もSASはより大きな役割を果たしてくれるでしょう」と話している。
課題
安全かつ有用ながんの治療法を開発するのに、大量の臨床試験データをハンドリングして集計・分析できる統計解析ツールが欠かせない。
ソリューション
利点
一度記述したプログラムを再利用しやすいSASでは、すべての臨床試験のデータ処理についてゼロからプログラムを記述する必要がないため、統計業務の工数を大幅に削減できる。
本記事に掲載された導入効果は、各企業によって異なる状況やビジネスモデル、入力データ、業務環境に固有のものです。SASの紹介する顧客体験は、各企業に固有のものであり、業務面や技術面の背景もそれぞれ異なるため、各事例に掲載されたあらゆる証言は、導入の典型例を示すものではありません。導入にともなう金銭的効果、導入結果、ソリューションのパフォーマンスなどの特徴は、個別の顧客のコンフィグレーションや使用条件に左右されるものです。本事例は、すべてのSASの顧客が当該事例と同じ導入効果を得られるとするものではなく、そうした効果を保証するものでもありません。SAS製品および提供サービスの保証内容は、各製品・サービス向けに締結された契約書内の保証条項に記載された内容に限られます。したがって、本事例に掲載された内容は、それらの保証内容をなんら補足するものではありません。事例に掲載された顧客は、各事例をSASとの契約にもとづいて提供しているか、SASのソフトウェアの導入成功にともなう体験を共有しているものです。