株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング
SASがなければ信頼性を得られない
臨床検査・市販後調査の
デファクトスタンダードとしてSASを活用
株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(以下、J-TEC)は、臨床試験と市販後の調査におけるデータマネジメントと統計解析にSASを利用している。組織全体の効率を考え、データのクリーニングをSASで行うなどの工夫をし、少人数で確実に結果を出し続けている。
毎年の定期報告が主な業務となる市販後調査では、SASプログラムを情報資産として保有・再利用しています。業務量が増えているにもかかわらず、少人数で対応できているのはSASのおかげです
大竹 優哉氏
株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング
臨床開発部 臨床開発課 課長補佐
定量的にものを考える
J-TECは、ティッシュエンジニアリング技術をベースに、再生医療を事業化することを目指す企業として1999年に設立された。2007年に自家培養表皮ジェイスの承認を取得し、2009年には国内で初めて保険収載された。その後も2012年に自家培養軟骨ジャックの承認を取得し、2013年に保険収載された。優れた技術力を背景に次々とステップを上がり、有望ベンチャーとして数多くのメディアに取り上げられ、株式上場も果たしている。現在は株式上場を維持しながら、富士フイルムグループの一員として、さらなる飛躍を目指して再生医療等製品の開発に取り組んでいる。
その同社がSASを導入したのは、2010年のことだ。医薬品の臨床研究や市販後調査にあたっては、優れた統計解析ツールが必要になり、そのデファクトスタンダードになっているのがSASだ。しかし、ベンチャー企業である同社は、この部分を手作業で行っていた。特殊な事情もあった。完全に新しい分野なので、認可する側にもノウハウがない。一方、再生医療に望みをかける患者の存在もある。海外事例を参考にするなど、お互いが手探りで進める中、臨床を重ねて認可にこぎ着けた。
市販後は順調に症例を重ね、同社の事業基盤は整ってきた。認可する側も、再生医療の安全性評価についての基準を明確化できてきた。そこで同社は、新たに現在の臨床開発部の前身となる部署を設置。製薬会社やCROで経験を持つベテラン、野口 雅志氏を招いた。SASの導入は、SASがなければ信頼性を得られない、という野口氏の一言で決まった。
その年に入社したのが、大竹 優哉氏だ。研究一筋で、統計経験の全くなかった大竹氏は、配属予定のプロジェクトが始まるまでの間のお手伝いという形で、現在の臨床開発部の前身となった部署に仮配属された。それまでCUIの経験もなく、コーディングをしたこともなかった。SASの存在すら知らず、統計を学んだこともなかったが、猛勉強でSASに習熟してゆく。
大竹氏は、「1年目はさすがに厳しかったですね。野口さんに教えていただきながら、自分でもマニュアルや書籍を読み漁り、業務に必要な知識をつけていきました」と話す。徐々に戦力として認められるようになり、実績を積み上げていった。気がつけば、5年。今では「定量的にものを考える」という新しい世界にどっぷり漬かっている。
少ない症例から有用な結果を得る
J-TECは、多くの製薬会社と同様に、臨床試験と市販後の調査におけるデータマネジメントと統計解析にSASを利用している。ユニークなのは、臨床試験の症例が少ないことだ。少ない臨床例の中から、有効性と安全性について、それを示す結果を得られなければ認可が下りない。試験計画から実行、そして結果が出そろってからの解析まで、気の抜けないプロジェクトになる。
臨床試験には、統計解析以外にはモニタリング、品質管理、データマネジメントといった役割がある。J-TECの臨床開発課員16人のうち、SASを使うのは、野口氏と大竹氏の2人で、モニタリング担当者は8人。全国の病院で、医師と協力しながらデータを集めるのがモニタリング担当の役目だ。世界で初めて行われる治験結果を真っ先に知ることができるのが、彼らだ。治験結果は、郵送すら禁止される厳格な情報管理のもと、担当者が持ち帰り、データ入力が行われる。ここにも一工夫がある。
「データ入力ツールは、情報システム部門に作ってもらいます。ただ、データのクリーニングはSASで行います。入力ツールで制限をかけると、情報システム部門の負荷が大きくなるため、組織全体の効率を考えると、SAS側でやってしまった方がいいのです」(大竹氏)
事前計画を立案すると、臨床試験と並行してプログラム開発を行う。データ入力の際に疑問があれば、すぐに担当者に確認できるのは、少数精鋭のメリットだ。解析計画はデータがそろう前に固め、解析は計画に忠実に行う。データがそろった後に計画を変更することはしないのが臨床統計の大前提だ。そして、データがすべてそろえば、SASを使って解析する。解析結果はExcelに吐き出すが、データの信頼性を担保するために、Excel上で内容を変更することは一切なく、総括報告書を書くためだけに利用する。
市販後の調査もほぼ同様のプロセスで進める。ただ、こちらは毎年の定期報告が主な業務のため、過去のプログラム資産を利用できる。報告書は監督官庁に提出されるとともに、一部内容のサマリーがPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)を通じてオフィシャルに公開される。
大竹氏は、「業務量が増えているにもかかわらず、少人数で対応できているのはSASのおかげです。SASがなければ、これだけの量をこなすのは不可能です。臨床開発課が存続していられるのは、SASがあるからと言っても過言ではありません」と話している。
統計の考え方で一段上の実験を
研究者としてのキャリアから、臨床開発課でSASを使う仕事へ転じた大竹氏は、「最初は戻りたいと思ったこともありましたが、いまにして考えれば、この仕事をやれて本当に良かったと感じています。統計で何ができるかを身をもって知ることができたこと、そしてもちろん、SASに習熟できたことも含めて」と話す。「いま戻ったとしても、何年も実験していませんし、腕も落ちているでしょう。ただ、定量的にものを考えるというスタイルを実験に持ち込めば面白いとは感じます」。
大竹氏によれば、バイオ系の人は、目の前で起きている事象を追う傾向にあり、かつての自分もそうだったという。定量的に考え、三段論法を組む。実験は必ず複数回やって、理論をより強固にしていく。こういう考え方が、研究者にとって必要になってくる。
「再現性があることが科学には重要なのですが、一度の実験でそれを証明できません。こうした考え方が身につくのが、統計を学ぶことなのです。統計を使う仕事をしていると、SASの使い方を含めて、土台になる考え方がしっかりしてきます。きっと、一段上の実験ができるようになるはずですから、研究者を目指す人も、統計を学ぶことをおすすめします」(大竹氏)
課題
医薬品の臨床研究や市販後調査にあたり、信頼性の高い統計解析ツールが必要だった
ソリューション
利点
臨床試験と市販後調査におけるデータマネジメントと統計解析にSASを活用し、監督官庁に提出する報告書の作成業務を大幅に効率化