日本たばこ産業株式会社
需給計画システム実現へのコアテクノロジーとして、エンド・トゥ・エンドでSASを活用
全社的プロジェクトの一環として構築された需給計画システム
いま、日本たばこ産業株式会社(JT)はサプライチェーンという観点から新しい取り組みを見せはじめている。そのひとつが、1999年4月よりカットオーバーされた需給計画システムだ。これは全体の物流ネットワークおよび情報システムの再構築という流れの中、“商品の売れ行きを予測し、より新鮮なたばこをタイムリーにお客さまに提供すること”そして“輸送コストや在庫、業務量など、ロジスティックスコストを削減すること” という極めて困難なビジネスミッションの実現のために構築されたものである。SASによる需要予測機能は、このシステムの心臓部を担い、物流部門だけでなく営業部門など同社の本社・全国の支社で活用されている。各部門のコラボレーションにより、予測の精度は向上し、在庫削減や輸送コスト低減などに貢献している。
リードタイムの短縮と在庫削減を実現
需給計画システムの全容はこうだ。まず過去の販売実績データをベースにたばこの需要予測を行なう。これは毎週1回、SASによって自動的に行なわれる。そしてこれをベースに本社の営業部および各営業支店で微調整を行ない、営業施策を反映。これが需要計画であり、各物流センターは、この計画と倉庫在庫状況に基づいて基地からデポへの輸送計画を作成する(二次輸送計画)。本社の物流部門はこの計画に基づいて工場から基地への輸送計画を作成する(一次輸送計画)。この輸送計画に基づいた需要量は、製造部門に引き渡され、そこで製造計画が作成される。また、この輸送計画はSAP R/3をベースにした販売物流システムにリアルタイムに送信され、伝票発行・実績化などの実行ベースへ引き継がれている。
つまり、需給計画システムは工場から販売店までのビジネスプロセスがシームレスに結びついたものなのである。以前はこうした部門間の情報や計画は統合されておらず、「計画を作成しても、結局は前日に必ず見直しをかけて、手作業による微調整を行なっていました。この新しいシステムでは、ある程度自動的に作成された計画がほぼそのままの形で利用できます。しかも、月次ベースで行なわれていた工場から基地までの一次輸送計画は週単位で実行できるようになり、基地からデポまたはターミナルデポまでの二次輸送計画は旬ベースから日次ベースになりました」(日本たばこ産業株式会社 たばこ事業本部 物流部 課長渡辺敏信氏)。
製造・販売・物流の情報整備と、需給上の共通ルールや統一した基準に基づく計画の実践を可能にした需給計画システムにより、人手による調整業務が低減され、効率的で効果的な需給体制が実現されたのである。「業務的に非常にスピーディかつ楽になり、以前はなかなかできなかった分析作業が積極的に行なえる環境になりました。また、情報の統一によって分析情報がより正確になり、リードタイムの短縮および在庫削減に結びつくにいたっています」(渡辺氏)。
販売実績のデータウェアハウスをSASで構築
JTのように多様な商品を取り扱う企業にとって、日本各地の需要ニーズに合わせてそれぞれの商品を素早くかつコスト効率良く全国の販売店に提供することは容易なことではない。銘柄によっては需要のブレが大きく、季節によってもそれは大きく変わるからだ。たとえば毎年12月は需要が増大し、1月には大幅に減少する。こうした変則的な予測を人の手で行なうことは極めて難しい作業であった。
SASを活用した需給計画システムでは、データを各自でモニタリングしながら、あるいは物流センターで実際に在庫確認をしながら輸送調整を行なっていくことが簡単にできるようになっている。精緻なグラフで実績と計画の階差がはっきりとわかるのである。また、輸送計画と在庫の推移を一覧で見ることやシミュレーションを行なうことも可能だ。
「SASは多様な統計的手法をもっており、高精度な需要予測を可能にしてくれます。SASデータセットで構築した大規模な販売実績のデータウェアハウスによって、リアルタイムで銘柄・支店・業態といった切り口から情報を見ることができます」(同部 製品物流担当武市朝裕氏)。
現在、販売実績モニタリングの件数は、約1億件、データサイズは約15GB。輸送や在庫、テーブル系などを含めるとモニタリング機能トータルとしては約40GBのデータベースとなっている。「これだけの大規模データを高速に処理するには、SAS以外は考えられませんでした。データセットから予測機能までのこうした仕組みを、他ソフトウェアやC言語などによるアプリケーションを使用することなく、SASだけで構築できるのも大きな魅力のひとつでした」(武市氏)。
需要予測精度の向上をめざしてさらに発展
現在、JTの製品物流チームでは、さらなる在庫削減を目標に、モニタリングデータベースの強化をはかっている最中である。さまざまな種類のデータを、さまざまな角度から取得・分析できるようなデータベースの構築である。また、同社のトップマネジメント向けに、経営戦略を意識した観点から会社在庫の数量や運賃コストなどのデータを集約し、よりユーザーフレンドリーなインターフェースをもったアプリケーションも構築していく予定である。
「今回のシステムはSAS/IntrNetを介してさまざまな機能を提供しています。ですからクライアントに特別なアプリケーションをインストールすることなく、ブラウザがあれば誰でも分析できるというメリットをもっています。機能変更もサーバ側を変更するだけですので、メンテナンスも非常に楽な作業です。こうした Web環境による業務アプリケーションの構築をいま以上に発展させていきたいと考えています」(武市氏)。
さらに、同チームではシステムがどの部門でどう活用されたかというユーザーの利用状況をトラッキングできる管理ツールも充実させていく予定だ。これにより、より正確なユーザーニーズを反映させ、システムの利用率および予測精度の向上をはかっていく。こうしたさまざまな取り組みによって需給計画システムはますます大きく発展し、たばこ事業全体としてのコスト競争力獲得に大きく貢献していくだろう。
課題
予測の精度を向上し、在庫削減や輸送コストを低減
ソリューション
多様な統計的手法による高精度な需要予測と、大規模データを高速に処理するシステムの構築